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Looking for valuable coins

インドコイン通史-1

2024年1月31日

ここのところインドの経済発展に注目が集まり、インドのコインについて質問を受けることが多くなってきました。この機会にインドの代表的なコインをご紹介しながら、インドのコイン史を時系列的に俯瞰しておきたいと思います。インドのコインを断片的に知ることはできても、このように一気通貫でインドコインを見る機会は、案外と少ないのではないでしょうか。

クシャン朝

紀元前3世紀から紀元前2世紀にかけ、インド東北部から今のアフガニスタンあたりには、ギリシャ系のバクトリアという国がありました。なぜこんなところにギリシャ人の国があったかといいますと、アレキサンダーの急死後、その地方総督の一派がここで建国したからです。つまりバクトリアはアジアの海の中にぽつんと取り残された、ギリシャの断片といってもいいでしょう。バクトリア王国は一時随分と隆盛を誇っていたようですが、紀元前2世紀に滅びました。旧バクトリアの土地には、その後、中央アジアから移動してきた大月氏(ダイゲッシ)が居座り、そのうちの一派が紀元1世紀に建てた国がクシャン朝です(注)

注)異説ありです

クシャン朝時代のインド地図:「世界史の窓」サイトから転載

クシャン朝は、西方のローマ帝国と東方の漢帝国の中間地点にあり、貿易の中継地としての性格を持っていたようです。富裕化したローマ人は東方の帝国、漢からの絹織物や、インドの香辛料などのぜいたく品を輸入し、その対価として巨額の金貨が逆方向に流れてゆきました。その一部はクシャン朝に流入し、それを溶かして多くのディナール貨がクシャン朝で発行されています。

当時の歴史資料はほとんど残されておらず、クシャン朝のコインは古代インドを知るための重要な手がかりになっています、以下はAD267-300年に王位にあったヴァスデヴァ2世時代に発行されたディナールです。

(クシャン朝のディナール、ヴァスデヴァ2世時代)/「ときいろ」のサイトより

直径1.8センチほど、重さ8グラム弱の小さな金貨ですが、これが当時の世界基準です。

初期のディナールにはギリシャ文字が使われていますが、これは当時のギリシャ文字が一種の世界共通の文字と認識されていたからでしょう。クシャン族のもともとの宗教はゾロアスター教でしたが、4代目(といわれる)カニシカ王時代(AD128-150年ごろ)に仏教に改宗しました、その後もインド土着のヒンドゥー教の色彩を残しており、このコインのウラ面にもヒンドゥー教の神様シヴァが描かれています。このあたりの「宗教ミックス」もまた、クシャン朝コインの特徴といえるかもしれません。

クシャン朝のディナールは、3代目といわれるヴィマ・カドフィセス王(AD113-127年ごろ)に発行が始まり、この時代には同朝唯一の2ディナール(=ダブル・ディナール)が発行されています。僕も長いことコイン収集をやっていますが、このダブル・ディナールはめったに出てきません、最後に見たのは6年ほど前だったと思います、以下そのコインの写真です。

(クシャン朝のダブル・ディナール、ヴィマ・カドフィセス時代)/「銀座なみきFP事務所」のコインサイト、「過去に落札したコインの事例」より

上のように通常のディナールは重さ8グラムほどですが、このコインは2倍の16グラムほどもあります、当時から僕はインドのコインに注目しており、あるお客様にお勧めして落札に至りました、その方の総支払額は370万円ほどで、今から考えると破格の安さです。それ以降、僕はダブル・ディナールを見ていませんが、今出てきたらいったいいかほどの値が付くか見当もつきません。状態はご覧のようにかなり良く、EFはああります。サイズが大きいだけに図柄もはっきりしており、オモテ/ウラとも周辺部分にギリシャ文字が刻印されているのがよくわかります。

ヴィマ・カドフィセスの金貨は、ダブル・ディナールはもちろんのこと、ディナールですらめったに市場に出てきません、状態のよい、たとえばEFクラスの鑑定済みコインが、もしオークションに出てくるなら、日本円で(総支払額)200-300万円ほどの値が付く可能性があります。

一般的に市場に出てくるのは、4代目のカニシカ王(カニシカ1世)からということになりますが、このカニシカのコインはやたら人気があり、EFクラスでも軽く100万円を超えるようになってきました。カニシカは仏教を保護した王様として、また「王のなかの王」として名を知られた王様です。このあたりローマのカエサルやオクタビアヌス、ハドリアヌスなど、有名人の金貨の値が張るのと同じ理屈です。

カニシカのコインについて一点付け加えると、オモテ面にカニシカが、ウラに仏さまが描かれた銅貨がまれ出てきます、普段使いのコインなので、どれもこれも状態は悪いですが、市場に出てくるといつも高値を付けます。一昨年(2022年)12月、海外で開かれたオークションに、この「カニシカ+仏陀」の銅貨(テトラドラクマ)が出品され、日本円の総支払額100万円ほど落札されています、状態はVFクラスで欠点があるコインでした。僕も何とか入手したかったのですが、おカネが尽きて断念しました、いまだに悔しいです・・・。

カニシカ以降、フビシュカ(在位AD162-180年ごろ)、ヴァスデヴァ(同182-230年)、カニシカ2世(同230-247年)と続きますが、このあたりまでは比較的高値を付け、未鑑定でもEFクラスなら30-50万円といったところでしょう。ごくまれにNGC社の鑑定済みコインが出てきます、例を挙げると昨年(2023年)のオークションワールドで、カニシカ2世のNGC-Ch XF Scuff(EF-クラス)が、総支払額ベース79万円ほどの値を付けています。このコインはヘリテージ社が2022年12月のオークション開催に際し、特にNGC社に依頼して鑑定を受けたものの一枚です。ヘリテージ社によると「素晴らしいコレクションだったので、NGC社に特別に鑑定を引き受けてもらった」とのこと、もしかしたら最初で最後になるかもしれません、上の79万円にはその付加価値が乗っていると思います。

すみません、今回はクシャン朝に始まりグプタ朝→中世インド南部のヒンドゥー教国→ムガール→イギリス領インド→インド共和国 と順を追って紹介しいくつもりでしたが、最初のクシャン朝で紙数も力も尽きてしまいました、続きは来月書かせていただきます。

興味のない方もいらっしゃる・・、イヤ大半の方は興味ないと思いますが、なにとぞもうしばらくお付き合いくださいませ。インドのコインを知っておいてソンはないと思いますよ。

次回はグプタ朝から中世インドにお話しを進めてゆきたいと思います。

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