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From the economic column I wrote in the past

インフレ時代の資産運用

2024年3月31日

日本では30年ほどもデフレが続いてきましたので、インフレ時代がやってくると私たちの生活がどう変わるのか、なかなか想像できない人が多いのではないでしょうか。

そういう僕自身も、すっかりインフレ時代の記憶は遠のいてしまいました。

そんなことで今回は、インフレ時代の私たちの生活や資産運用について少し考えてみたいと思います。

インフレは金利の上昇を伴うか?

一般に、モノの値段が継続的に上がると金利も上がるといわれます。

この点は私たちの常識になっていると思いますが、ほんとにそうなのでしょうか。まずはこの点を疑ってみたいと思います。

一般にモノやサービスの価格が上がりますと、多くの会社では売り上げが増えますし、その結果として利益も増えるといっていいでしょう、なかには売り上げが増えても利益が増えない会社もあるかもしれませんが、そんな「ゾンビ企業」は早晩市場から退出を迫られるはずです。

その結果、市場に残っている会社の多くはインフレ時に売り上げが増え、それに伴って利益も増えるはずです。

では会社の売り上げや利益が増えるといったい何が起きるのでしょう。

一般にそんなインフレ環境下で会社は積極的な経営姿勢に転じます、これはインフレが経営者に与える精神作用の一つで群衆心理といってもいいでしょう。言い換えれば会社が「守りから攻めに転じる」ということです。その結果、多くの会社は好条件を提示して優秀な人材を確保しようとするでしょうし、研究開発や設備への投資を進め、より高度な製品を作って他社との競争に勝とうとするはずです。

つまりインフレによって従業員のお給料は増え、研究開発や設備投資など、前向きな支出が増えるということです。

特に研究設備の購入や工場の設備更新などは、おカネの流出を伴いますので、多くの会社では資金に対する需要が高まります、その結果、おカネの調達するためのコスト、言い換えれば金利は上がることになります。

このようなことから、さきほど申し上げた「一般にモノの値段が継続的に上がると、金利も上がる」は正しいといえるでしょう。その背景にあるのは、インフレに転じることによる企業の経営姿勢の変化ですし、もっと深い意味でいえば群集心理によって起きる現象です。

金利が上がると何が起きるのか/庶民の生活編

では一歩進めて、金利が上がると何が起きるのでしょう。

まずは私たち庶民の生活への影響からです。

多くの方は住宅ローンを組んでいると思いますが、すでに変動金利で借りている方は注意が必要です。住宅ローンの変動金利は短期金利(≒日銀の政策金利)との連動性が高く、利上げによって金利も上がるからです。

では今後、政策金利はどの程度あがるのでしょう。

すでに前回の会合で日銀は0.2%の利上げを決め、政策金利を▲0.1%⇒0.1%に上げましたが、市場では年内0.2%の利上げを2回やり、年末時点の政策金利を0.5%と見る人が多いようです。

この程度の利上げなら変動型の住宅ローンに与える影響は知れていますが、問題はその先です、日本経済が好循環に入るのは好ましいことですが、その場合、さらに日銀は利上げする可能性があります。もし来年、再来年と政策金利がさらに上がるようなことがあれば、ぎりぎりの収支でローンを組んでいる人の生活は厳しくなるでしょう。

冒頭のように金利の上昇期には、お給料も増える可能性が高いですが、増えたお給料の大半が住宅ローンの利払いに消えるようなことが起きるかもしれません。そして利払い増をカバーできない人は、最悪の場合物件を手放すことになります。

より深刻な影響を受けるのは、たとえば投資用不動産を頭金ゼロで買っているケースです、そもそもこのような過大投資におカネを貸すのはノンバンクですから金利は変動型です。政府系の公庫は投資用不動産に固定金利の融資はしますが、頭金の条件が厳しく、こんなイケイケ系の人に融資はしません。

今でもたちの悪い不動産業者が頭金ゼロ、30年変動金利などといった条件でローンを組ませるケースがあるようですが、そんな人は0.5%の金利上昇にすら耐えられない可能性があります。

上のような理由から、利払いの上昇に耐えられず、捨て値で売られる物件が増えてくるかもしれません。でも金利の上昇期は景気拡大期と重なりますから、不動産への買い意欲も強いはずです。したがって都心にあって資産性の高い物件は相場を維持できると思います。

金利上昇の悪影響を受けやすいのは、資産価値が低い地方都市や郊外の木造アパートなどです。このような物件は需給のバランスが壊れ、相場が下落する可能性が高いでしょう。

これは長いデフレ時代に蓄積された歪みの表面化です。

思い出すのは前回の不動産バブルが起きた1990年前後です、当時は金利の上昇ではなく、総量規制という「おカネの蛇口閉め」が相場急落の原因でしたが、結果として起きたのは不動産相場の急落でした。当時、会社の先輩にも不動産王がいましたが、身の丈に合わない「フルローンの筒いっぱい投資(注)」は身の破滅につながりかねません。

注)筒いっぱい:兵庫県の方言で「ギリギリでめいっぱい」といういみです。

続いて「金利が上がると何が起きるのか」の二つ目です。

冒頭のように金利の上昇はインフレを伴います、長い間デフレが続いたので、私たちはおカネを金庫にしまっておくだけで、その価値は増えてゆきましたが、インフレ時代はそうは行きません。2%インフレの世界では、金庫の中のおカネの価値は毎年2%ほど下がってゆくのです。長い間デフレが続いてきただけに、私たちは頭を切り替えなければなりません。

すでにそれを見越しておカネを金やコインに代える人が増えてきましたが、今後さらにこの動きは活発になるでしょう、金利の上昇にもかかわらず、利子を生まない金(Gold)が最高値を更新中ですし、アンティーク・コインの落札相場も上昇中です。そこに日本固有の問題として円の先安観が加わります、富裕層中心にみられる現物志向はこれからさらに強くなるでしょう。

外国株人気も相変わらず続くと思います、外国株投資には円安ヘッジの意味もありますし、インフレヘッジの効果もあります。富裕層だけでなく新NISAの少額マネーも巻き込んで、さらに大きな流れになってゆくでしょう。ながらく日本人は、預金志向が強いといわれ続けていましたが、今後は徐々に株の保有割合が多くなってゆくと思います、それは資産の分散や資産形成の観点から好ましい現象だと思います。

金利が上がると何が起きるのか/日本の政府編

「金利が上がると何が起きるのか」・・・、こんどは視点を変え、日本という国全体への影響を考えてみます。

まず心配なのは「利払い費」の増加です。

皆さんご存じのように日本政府は多額の国債を発行しています、2023年現在で1000兆円を超えており、その利払いに多額のおカネを使っています。財務省は3%の経済成長と2%のインフレが続けば2027年度の長期金利が2.4%に上がると試算しています、同省は今年(2024年)の長期金利を1.9%と試算していますから、0.5%の金利上昇です。この前提に立てば、2027年度の利払い費は1.6倍の約15兆円まで膨らみます。昨年度の利払い費は8.5兆円だったので、これだけで6.5兆円の収支悪化要因です。

インフレ時には経済も活性化しますから税収も増えますが、その額は2.3兆円にとどまるそうです。経済が活性化して財政が悪化するのはなんだかヘンですが、このあたりに日本の構造的な問題があると思います。

次に気になるのは財政の膨張です。

本来インフレは財政の改善につながることが多いです。なぜならインフレ時は一般に景気の拡大期と重なり、法人税や所得税、消費税などの税収が増えるからです。さらにインフレで名目GDPが増え、対GDP比でみた政府債務が小さくなれば、長い間懸案だった日本の財政問題も一息つくことができます。

一方で問題点もあります、一つは上でみた利払い費の増加ですが、それより気になるのは財政の膨張です。ただでさえ政治家は財政の拡大が大好物ですが、インフレの進行によってタガが緩み、その傾向が強まらないかと心配です。好景気時にすら財政悪化が止まらないなら、いったいいつ財政は均衡するのでしょう。そのような観点からも、私たちにとって資産の地理的かつ質的な分散は、ますます重要になってくると思います。

以上今回はインフレ時代の注意点について、私たちが資産運用で気を付けておくべきことを考えてきました。長い間デフレ時代が続いてきましたが、インフレ時代には発想の転換が必要になると僕は思います。

強い現金志向や「筒いっぱい」の不動産投資も危ないと思います、また資産の地理的かつ質的な分散が、今まで以上に求められると思います。

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