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From the economic column I wrote in the past

貧しくなった日本とその将来

2021月6月30日

いまから20年ほど前、僕はサラリーマン時代最後の車を買いました、当時の中堅サラリーマンが買う車は、だいたい200万円台の後半から300万円台の半ばと決まっていたものです、僕が当時買った車も金額に収まっていいました。

あれから20年・・・、世の中変わりましたし、私たちの車に対するおカネのかけ方も随分変わりました。

若者はすっかり車に乗らなくなりましたし、サラリーマンも昔ほど車におカネを使わなくなりました、この20年間の車に対するおカネのかけ方をみますと、ちょっと大げさかもしれませんが世界のなかで、いま、日本がどのような経済的な立ち位置にあるのか知ることができます。

車はなぜ高くなったのか

さきほど僕は、当時の中堅サラリーマンが乗る車の価格を200万円台の後半から300万円台半ばと申し上げましたが、この価格帯はすでに過去のものになりつつあるといえるでしょう、車に興味ない方には申し訳ないのですが、たとえばトヨタのアルテッツァという小型セダンを例に考えてみましょう、2000年当時この車は概ね300万円前後に価格設定されていました、その後トヨタはアルテッツァやその上位機種のアリスト、ソアラ、セルシオなどを分離し、高級車ブランドレクサスを立ち上げました、ですからすでにアルテッツァという車種はありませんが、あえてその系譜をたどるとレクサスのISに行き着きます。問題はそのレクサスISの価格ですが、いくつかのグレードがあるものの、大雑把に平均すると600万円ほどにもなります、レクサスへの移行に伴う性能の向上もありますが、それでも当時の相場からみるとほぼ2倍です。

レクサスの事例ほどではありませんが、日産やホンダ、マツダなど他社でも似た傾向が見られます、もっともわかり易いのは軽自動車で、グレードの高い車種ならば現在の価格は200万円を超えます。20年ほど前に比べると1.5ほどの価格設定になってしまったといってよいでしょう。

ではなぜ車はこんなに高くなってしまったのでしょうか。

僕はこの20年ほどで世界的にインフレが進んだ結果だと思います、車は私たちが日々消費する卵やミソ、もやしやパンなどと違い世界相場というものがあります、もし日本国内でアメリカやヨーロッパより格段に安く車が買えるならどうでしょう、その場合、日本車を個人輸入するアメリカ人やイギリス人が増えてしまい、現地のトヨタ車ディーラーとの間で摩擦が生じてしまいます、実は僕自身20年ほど前、アメリカからフォードの車を個人輸入しようとしたことがあります。当時は今と全く逆で、国内の自動車相場は海外より割高に設定されることが多かったからです、もちろん今そんなことしても採算は取れません。きっと自動車メーカーは内外価格差を是正しつつ現在に至っているのだと思います。ですから今私たちが日本で買うトヨタや日産、マツダなどの価格は、海外相場と比べさほど大きな差はないはずです。

皆さんご存じのように日本ではこの20年間というものほとんど物の価格は変わっていませんが、世界では毎年ものの価格は上がっていますし、賃金も上がっています。多くの国の中央銀行はインフレ目標を2%前後においていますが、おそらく実際に年率2%ほどで物価は上がっているのではないでしょうか、仮に毎年2%ずつ物価が上がれば20年で約1.5倍になる計算です。

  • 1.02の20乗≒1.49

冒頭で僕はアルテッツァの20年前の価格を300万円と紹介しましたが、当時の300万円の車の国際価格は今なら約1.5倍の450万円です、車が450万円ときけば随分高いと感じてしまいますが、残念ながらこれが世界の標準です。でも私たち日本人の賃金がこの20年で1.5倍になっていればどうでしょう、きっと現在の軽自動車や日産、マツダ車などの価格を、すんなりと受け入れることができるのではないでしょうか、もしかしたら若者たちの車離れも起きなかったかもしれません。このように考えると私たちに日本人は、この20年で随分と相対的に貧しくなってしまったことがわかります。

インスタントラーメンやもやしなど日常品はなぜ安いままなのか

一方でパンやみそ、もやしなどはどうでしょう、これらの海外相場を僕は良く知りませんが、おそらく日本の価格は先進国では突出して安いのではないでしょうか、このような食品や日用品などは、たとえ国内価格が安くても、イギリスやアメリカ人が手間や輸送費をかけて個人輸入するとは思えません、なので日本人の貧困化に見合ったローカルな価格設定が常態化しているのだと僕は思います、売価が安すぎてパンやミソを国内で販売しても儲からない⇒儲からないから設備におカネをかけられないし人件費も上げられない⇒お給料が増えないから常に物価に下落圧力がかかる⇒いくら作っても儲からないから設備も更新できないし賃金も上げられない・・・・、その行き着く先が今の「相対的な貧困化」です。

いったいこれからどうなるのか

車のように世界価格があるものは、世界の賃金上昇に引っ張られる形でジワジワ値上がりし、一方で日用品や食品のように国内の閉じた市場では「20年デフレ価格」が定着する、
もしこの状態が向こう20年続けばどうなってしまうのでしょう。

世界価格に収れんしやすい商品やサービスは、先進国の賃金上昇率(大雑把に年率2%)程度のスピードで、今後値上がりしてゆく可能性が高いのではないでしょうか。

車はその代表的な例ですが、他にも内外価格差に注目し、外国人が買い付けに来るものも世界価格に収れんするでしょう、例えばリゾート地のマンションや戸建てなど不動産、嗜好性の高い美術品や日本のコイン(注)、もっと範囲を広げれば彼らは日本のアニメやアニメを制作するプロダクションごと購入するかもしれません、今はコロナで閑散としていますが、コロナ前は都内の高級ホテルのロビーにいると「ここはいったいどこや?」というくらい外国人一色だった時期があります、コロナが明けるともっと顕著になるでしょう、都内の高級レストランも同様です。そして日本でまじめ働いているサラリーマンから、どんどん縁遠い世界が国内に出来があり、私たちは回るすしを食べる・・・、一部の「勝ち組富裕層」を除き。

注)すでに円銀(明治1円銀貨)などではその兆候が見られます、そのうち茶器や明治の新版画なども人気化するでしょう。

残念ながらこんな20年後になる可能性が高いと僕は思います、つまり「日本人むけの低価格商品やサービス」と「外国人向けの高級商品やサービス」の併存です。そうならないよう「20年デフレ」を止めるのは政治の仕事ですが、今の政治をみていると、どう考えてもそれが実現できるとは思えません、もしかしたらその深刻さに気づいていない可能性すらあります。ならばせめて自分や身内だけでも「勝ち組」に入れるよう、自身の生産性を高めるしかありません。多くの日本人がその方向に向いて進むなら、おのずと日本全体もよい方向に向かうのではないでしょうか。

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